11. 大豆たん白質の健康知識 女性の健康編
骨粗しょう症と大豆たん白質
閉経による骨密度低下の抑制に関係
高齢化社会の到来、そして食生活の多様化とともに関心が高まった病気のひとつに「骨粗しょう症」があります。骨粗しょう症は骨密度が低下して骨がスカスカになり、骨折しやすくなる病気です。ただし骨粗しょう症は静かに進行していく病気ですから、骨密度が相当低下しても自覚症状はほとんどなく、実際に骨折するまでこの病気に罹っていることに気づかない人が多いのが特徴です。
骨粗しょう症にはいろいろな種類がありますが、圧倒的に多いのが「閉経後骨粗しょう症」といわれているもので、それに次ぐのが「老人性骨粗しょう症」です。
閉経後骨粗しょう症は、文字通り閉経後の女性に多い病気で、50歳~60歳代に生じるタイプです。65歳の女性では2人に1人が骨粗しょう症に罹っている、とさえいわれます。この閉経後骨粗しょう症の最大の原因と考えられているのが、閉経による女性ホルモン(エストロゲン)の分泌低下です。人によって異なりますが、閉経でエストロゲンの分泌量がそれまでの10分の1程度に減少すると骨吸収(骨破壊)が優位になってきます。特に閉経直後の数年間は、年2~4%もの骨密度の低下が見られるということです。
■図1 更年期の骨量減少
もともと骨密度は女性のライフサイクルと密接な関係を持っています。女性は10歳ごろから卵巣の働きが活発になると、女性ホルモン(エストロゲンや黄体ホルモン)の分泌もさかんになり、12歳前後で初経(初潮)を迎えます。骨密度はこれと連動して18歳前後で最大値に達しますが、それ以降はなだらかに減りはじめます。そして閉経の前後から減少スピードが早まっていくのです(図1)。
つまり骨密度が18歳前後でピークに達すると、以後、さらにこれを上げることはできないのです。ですから閉経後骨粗しょう症を予防するには、ピーク時の値をできるだけ高くしておくこと、そしてピーク時からの骨密度の減少を最小限に抑えることが大切になってきます。いわば骨の貯金をどれだけ多くもって閉経期を迎えるか、が問題になってくるのです。
閉経期を過ぎ75歳以上の高齢期になって骨折すると、それがきっかけとなって寝たきりになる人の割合が大きくなってきます。東京都は5年ごとに高齢者の実態を調査していますが、この15年で寝たきりの原因となった骨折は7.4%から12.0%と増加しています(図2)。
図2 寝たきりなどになった主な要因
骨粗しょう症の原因はエストロゲンの分泌低下以外にもいろいろあります。例えば骨をつくっているカルシウムの不足や、カルシウムが腸から吸収されるのを助けるビタミンDの不足といった食生活の問題、また運動不足や日光にあたる時間の少なさなどです。骨密度の低下を予防したり改善する研究が国内外で進んでいますが、研究者たちの多くが注目しているのが、大豆たん白と大豆製品です。
アレケル(Alekel)らは2000年に「大豆たん白の摂取と閉経期の女性の腰椎の骨密度」という研究発表を行っています。閉経期の女性(42歳~62歳:平均52歳)69人を3グループに分け、それぞれのグループに下記に示した内容の異なる大豆たん白40gを6ヶ月間与え、各グループの腰椎の骨密度(BMD)と骨塩量(BMC)を測定し、比較した実験です。
図3 大豆たん白質の摂取と閉経期女性の腰椎の骨密度と骨塩量
■グループI(ISP80):アグリコン※として80.4mgのイソフラボンを含む大豆たん白40g
■グループII(IF):4.4mgのイソフラボンを含むアルコール洗浄で抽出した大豆たん白40g
■グループIII(対照):牛乳に含まれるたん白質であるホエーたん白40g(イソフラボンは含まれない)
※アグリコンはイソフラボン配糖体から糖をはずしたもの
これによると6ヵ月後、イソフラボンをまったく含まないホエーたん白投与のグループIIIは、骨密度、骨塩量ともに有意な減少を示しています(図3)。イソフラボンがわずかしか含まれない(4.4mg)大豆たん白投与のグループIIも、有意差はないものの骨密度、骨塩量ともに減少傾向が認められました。これに対しイソフラボンを80.4mg含む大豆たん白投与のグループIでは、骨塩量の増加が確認されたのです。
ポッター(Potter)らは1998年に「大豆たん白質の摂取と更年期後の女性の腰椎の骨密度」という研究発表を行なっています。更年期後の女性(62歳)66人を3グループに分け、それぞれのグループに下記に示した内容の異なるたん白40gを6カ月間与え、各グループの腰椎の骨密度(BMD)と骨塩量(BMC)を測定し、比較した実験です。
図4 大豆たん白の摂取と閉経後の女性の腰椎の骨密度
■グループI(ISP56):アグリコン※として56mgのイソフラボンを含む大豆たん白40g
■グループII(ISP90):アグリコン※として90mgのイソフラボンを含む大豆たん白40g
■グループIII(対照):牛乳に含まれるたん白質であるカゼイン40g(イソフラボンは含まれない)
※アグリコンはイソフラボン配糖体から糖をはずしたもの
これによると6カ月後、イソフラボンをまったく含まないカゼイン投与のグループIIIでは、骨密度も骨塩量も明らかな減少を示しています(図4)。グループIはアグリコンとしてのイソフラボンが56mg含まれている大豆たん白を摂取しているためか、骨密度、骨塩量の減少度が顕著に抑えられています。さらにグループIIになると、骨密度、骨塩量は明らかな増加を示しています。
大豆たん白に含まれるイソフラボンが、どの程度、骨の強化に関係しているか、まだはっきりした結論は出ていませんが、大豆たん白質と骨粗しょう症との関連はその後も研究が進められています。
2001年には取手協同病院産婦人科主任科長の染川可明氏らが『食事からとる大豆イソフラボンは、閉経後の日本人女性の更年期症状や骨密度に、どのような影響を与えているか』と題する論文を米国産婦人科学会の学会誌「産婦人科学」に発表しています。研究では対象者478名を大きく閉経直後群(閉経後5年以内)と閉経後長期経過群(閉経後5年以上経過)に分け、さらにこの2群を大豆イソフラボンの摂取量の違いによって、それぞれ下記の4つのカテゴリーに分類しました。
■グループA:イソフラボン摂取量35mg/日以下
■グループB:イソフラボン摂取量35―50mg/日
■グループC:イソフラボン摂取量50―65mg/日
■グループD:イソフラボン摂取量65mg/日以上
主なイソフラボンの供給源は、豆腐(47%)、納豆(30%)、みそ(11%)で、これら3種類がイソフラボン供給源全体の約88%を占めています。
その結果、閉経直後群、閉経後長期経過群のどちらの群でも、イソフラボンの摂取量が多いほど、骨密度が高くなることが示されました。特に閉経直後群ではイソフラボンの摂取量が1日50mg以上のグループC、Dに、閉経後長期経過群ではイソフラボンの摂取量が1日65mg以上のグループDに、統計学的な有意差が確認されています。以上のことから、閉経後の女性が大豆製品を多く摂ることは、骨密度の低下を防ぐのに有効という見方ができます。
図5 閉経後女性のイソフラボン摂取による腰椎の骨密度の変化