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9. 大豆たん白の健康知識 女性の健康編

更年期障害と大豆たん白

【1】更年期について

 日本では、閉経前5年、閉経後5年を合わせた10年間を更年期とし、性成熟期から老年期への移行を指す用語としています(注1)。閉経は卵巣の機能が次第に低下し、月経が永久に停止し、12カ月以上の無月経をもって判断されます。日本人の閉経年齢の中央値は52歳であったと報告されています(注1)。更年期に現れる多種多様な症状の中で、器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼ばれ、これらの症状の中で日常生活に支障をきたす病態を更年期障害と定義されます(注2)。

 厚生労働省が令和4年3月に実施した「更年期症状・障害に関する意識調査」によると、「医療機関への受診により、更年期障害と診断されたことがある/診断されている」人の割合は、40 歳代女性で 3.6%、50 歳代女性で 9.1%と、いずれも1割に満たなかったが、更年期障害の可能性があると考えている人の割合は、40歳代女性で28.3%、50 歳代女性で 38.3%と高くなっていたことが知られています(注3)。また、40 歳代・50 歳代で、更年期症状が一つでもある人のうち、家事・外出・育児・介護・社会活動等において、影響が「とてもある」「かなりある」人の割合は約1割、「少しある」人を加えると約3割であったことも報告されています(注3)。

 更年期障害の症状は、大きく3種類があります(表1)。更年期の女性の約2/3がホットフラッシュ(胸、首、顔に感じられる自発的なあたたかさの感覚で、「ほてり」や「のぼせ」とも呼ばれます)を経験しています(注1)。閉経による女性ホルモンであるエストロゲンの低下で、僅かな体温上昇や外的刺激に対して反応してホットフラッシュが起こるとされます(注4、5)。

表1 更年期障害の症状(注1)

自律神経失調症状
  • 血管運動神経症状:ホットフラッシュ、発汗、冷え性
  • 睡眠障害
  • その他:動悸、頭痛、めまい、耳鳴り
精神症状
  • 抑うつ、精神不安定、意欲低下、不安感、記憶減退
その他の症状
  • 運動器賞状:肩こり、関節痛、腰痛
  • 消化器症状:腹痛、食欲不振、悪心・嘔吐
  • その他:易疲労性、皮膚症状、口喝感

 ホットフラッシュ、発汗、不眠などが主な症状の場合にはホルモン補充療法(HRT)を行います(注2)。HRTは、エストロゲン欠乏に伴う諸症状や疾患の予防ないし治療を目的に考案された療法で、エストロゲン製剤を投与する治療の総称です。HRTは、子宮出血や肝障害などを引き起こし、また、冠動脈疾患、脳卒中、静脈血栓塞栓症、乳がん、卵巣がんを増加する副作用があり(注1)、利用者が世界的に減少しました(注2)。更年期障害の補完代替医療として、植物性エストロゲンとされる大豆イソフラボンが、ホットフラッシュを減少させることで知られ、利用されています(注1、2)。

【2】更年期症状・障害の軽減効果

 大豆製品、大豆たん白、及びその構成成分であるイソフラボン摂取による更年期症状・障害(ホットフラッシュなど)への効果について、以下に紹介します。

(1)Nagataらは、1992年から岐阜県高山市在住の35~54歳の更年期前の女性1106人を対象に調査を始めました(注6)。調査開始時に食生活を調べ、大豆製品や大豆イソフラボンをどのくらい摂取しているかをチェックしておきました。そして6年後の1998年まで、のぼせ・ほてりの症状を再度調査しました。この期間中に101人の女性が軽度、および重度ののぼせ・ほてりの症状を訴えています。年齢、総エネルギー摂取、更年期症状などのデータと大豆の摂取量を対照させてみると、大豆製品をたくさんとっている人は、少ない人と比べると、のぼせの出現が約半分程度という結果が出ました。このことから大豆製品には、更年期に起きるのぼせやほてりを予防する効果のあることが示唆されたのです。

(2)Somekawaらは、478名閉経後の日本人女性を対象にして、更年期症状や骨粗しょう症と食事中大豆製品からイソフラボン摂取量との関係について調査しました(注7)。それによると、更年期症状のひとつであるほてりに関しては、大豆イソフラボンの摂取量の差によって有意差は出なかったものの、動機や腰痛の軽減という面では、明らかに大豆イソフラボンの摂取量が多いグループのほうに軍配が上がった、と報告されています(図1)。

図1 更年期症状スコア

図1 更年期症状スコア

グループA:イソフラボン摂取量35mg/日以下
グループB:イソフラボン摂取量35-50mg/日
グループC:イソフラボン摂取量50-65mg/日
グループD:イソフラボン摂取量65mg/日以上
閉経直後群:閉経後5年以下、n=269
閉経後長期経過群:閉経後5年以上、n=209
左の図は閉経直後群、右の図は閉経後長期経過群の結果。
※P<.05(一元配置分散分析による)。
閉経直後群では、動悸と背痛において有意差があった。

図2 大豆と小麦を使った実験

図1 大豆と小麦を使った実験

(3)1995年Murkiesらのランダム化比較試験(RCT)は、週に14回以上のぼせ症状がある58人の閉経後女性(平均年齢54歳、年齢幅30~70歳)を無作為に2グループに分け、それぞれに大豆と小麦の粉末45g(大豆粉はイソフラボンを豊富に含む)を12週間投与し(被験者には大豆粉末、小麦粉のどちらを投与しているかは告知しない)、その効果を見ました(注8)。大豆粉末を毎日摂取したグループ(28人)と、小麦粉を摂取したグループ(30人)を比較すると、どちらものぼせは減少しましたが(試験開始時に比べて大豆粉末を摂取したグループは40%減、小麦粉を摂取したグループは25%減)、大豆粉末グループでは小麦粉グループと比べて早くから有意な効果が見られました(図2)。

図3 大豆たん白の摂取とのぼせの発生率

図2 大豆たん白の摂取とのぼせの発生率

(4)1998年AlbertazziらのRCTは、大閉経後の女性104人を無作為に2グループに分け、51人(年齢幅48~61歳)に毎日60グラムの大豆たん白(76mgのイソフラボンを含む)を、他の53人(45~62歳)には毎日60グラムのプラセボ(カゼイン)を投与して、12週間後に分析を行いました(注9)。大豆たん白はカゼインに比べ、のぼせ(夜間の発汗も含む)の回数減少に、はるかに効果があることがわかったのです(図3)。

(5)2012年Takuらのメタ分析は、大豆イソフラボンサプリメントがプラセボに比べ、ホットフラッシュの頻度(13報RCT)と重症度(9報RCT)を有意に低減したことを報告しました(注10)。

(6)2016年Francoらのメタ分析は、食事およびサプリメント大豆イソフラボンとサプリメント大豆イソフラボンが対照に比べ、ホットフラッシュの頻度(それぞれ12報と8報RCT)を有意に低減したことを報告しました(注11)。

(7)2024年Gencturkらのメタ分析は、大豆イソフラボンが対照に比べ、抑うつレベル(3報RCT)を有意に低減したことを報告しました(注12)。

(8)2024年Ohらのメタ分析は、大豆イソフラボンがプラセボに比べ、ホットフラッシュの頻度(12報RCT)及び更年期症状の評価指標であるクッパーマンの更年期指数(Kupperman’s Index、8報RCT)と更年期障害評価尺度(Menopause Rating Scale、4報RCT)を有意に低減したことを報告しました(注13)。

【3】まとめ

 日本では、閉経前5年、閉経後5年を合わせた10年間を更年期とします。更年期障害の可能性があると考えている人の割合は、40歳代女性で約3割、50 歳代女性で約4割と高いことが知られています。また、40 歳代・50 歳代で、更年期症状が家事・外出・育児・介護・社会活動等において、影響がある人の割合は約3割であることも報告されています。更年期の女性の約2/3がホットフラッシュを経験しています。

 大豆製品、大豆たん白、及びその構成成分であるイソフラボンは、更年期症状・障害(ホットフラッシュなど)の軽減効果があり、更年期女性の生活の質向上に寄与できると思われます。

(注)

  • 1. 前林 亜紀. 更年期障害. 日大医誌. 2021; 80(4): 177-180.

  • 2. 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020. URL: https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00571/ (Accessed: Aug. 26, 2024).

  • 3. 厚生労働省. 「更年期症状・障害に関する意識調査」について. URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index_00009.html (Accessed: Aug. 26, 2024).

  • 4. Stearns et al. Hot flushes. Lancet. 2002; 360(9348): 1851-61.

  • 5. Rapkin AJ. Vasomotor symptoms in menopause: physiologic condition and central nervous system approaches to treatment. Am J Obstet Gynecol. 2007; 196(2): 97-106.

  • 6. Nagata et al. Soy product intake and hot flashes in Japanese women: results from a community-based prospective study. Am J Epidemiol. 2001; 153(8): 790-3.

  • 7. Somekawa et al. Soy intake related to menopausal symptoms, serum lipids, and bone mineral density in postmenopausal Japanese women. Obstet Gynecol. 2001; 97(1): 109-15.

  • 8. Murkies et al. Dietary flour supplementation decreases post-menopausal hot flushes: effect of soy and wheat. Maturitas. 1995; 21(3): 189-95.

  • 9. Albertazzi et al. The effect of dietary soy supplementation on hot flushes. Obstet Gynecol. 1998; 91(1): 6-11.

  • 10. Taku et al. Extracted or synthesized soybean isoflavones reduce menopausal hot flash frequency and severity: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Menopause. 2012; 19(7): 776-90.

  • 11. Franco et al. Use of Plant-Based Therapies and Menopausal Symptoms: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 2016; 315(23): 2554-63.

  • 12. Gençtürk et al. The effect of soy isoflavones given to women in the climacteric period on menopausal symptoms and quality of life: Systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Explore (NY). 2024 May 22;20(6):103012.

  • 13. Oh et al. Efficacy of plant-derived dietary supplements in improving overall menopausal symptoms in women: An updated systematic review and meta-analysis. Phytother Res. 2024 Mar;38(3):1294-1309.