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8. 大豆たん白の健康知識 メタボ予防編

メタボリックシンドローム(メタボ)と大豆たん白

【1】メタボリックシンドローム(メタボ)とは?

 メタボリックシンドロームとは、内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中などになりやすい病態を指します。(注1) 心疾患と脳血管疾患は、令和3年~5年、日本人の死因のそれぞれ第2位と第3位になっています。(注2)

 メタボリックシンドロームによるインスリン抵抗性、動脈硬化を誘発するリポ蛋白異常、血圧高値は心疾患と脳血管疾患を引き起こします。(注3)

【2】メタボリックシンドロームの診断基準

 日本では、ウエスト周囲径(おへその高さの腹囲)が男性85cm・女性90cm(男女ともに内臓脂肪面積100cm2に相当)以上であることに加え、

① 高脂血(中性脂肪150mg/dl以上 かつ/または HDLコレステロール40mg/dl未満)
② 高血圧(収縮期血圧130mmHg以上 かつ/または 拡張期血圧85mmHg以上)
③ 高血糖(空腹時血糖110mg/dl以上)

のうち2つ以上が当てはまると、「メタボリックシンドローム」と診断されます。(注3)

【3】肥満について

 肥満には皮膚の下に(中性)脂肪がたまる「皮下脂肪型肥満」と内臓の周りにたまる「内臓脂肪型肥満」があります。内臓脂肪型肥満の人は、糖尿病、高血圧症、脂質代謝異常など動脈硬化の危険因子を併せもつことが多く、それらは互いに密接に関連していることから、「メタボリックシンドローム」と総称されています。内臓脂肪は、インスリンの働きを抑え、血栓を溶かす機能をさまたげるなどの作用を持つ生理活性物質(アディポサイトカイン)を産生します。

図1 男女別BMIと疾病合併率の関連

 日本ではBMI〔体重(kg)÷身長(m)2〕25以上は肥満と定義されています。しかし、BMIが25未満でも、おへその位置の胴回りが女性で90cm以上、男性で85cm以上の場合、また体脂肪率が女性で30%、男性で25%以上の場合は、内臓脂肪型肥満あるいは体重のわりに脂肪が多い「隠れ肥満」の可能性が高いと言えます。BMI値と複数の生活習慣病を併せもつ率を調べたところ、女性ではBMI21.9、男性では22.2のときが、最も病気が少ないという結果が出ています(図1)。令和4年の国民健康・栄養調査結果によると、日本における肥満者(BMI≧25 kg/m2 )の割合は男性 31.7%、女性 21.0%であり、この 10 年間でみると、女性の肥満者の割合はほぼ横ばいであるのに対し、男性の肥満者の割合が増加しています。(注4)

【4】中性脂肪、内臓脂肪を減らすβ‐コングリシニン

 大豆タンパク質の主要成分の一つであるβ‐コングリシニンには中性脂肪、内臓脂肪の低減効果があります。

 ここでβ‐コングリシニンの、ヒトに対する効果を調べた臨床試験についてご紹介します。臨床試験の方法は、通常の食事に1日5gのβ‐コングリシニンを摂取させ、血中の中性脂肪と内臓脂肪量を調べるというものです。(注5)

 その結果、牛乳などに含まれるたんぱく質の一種であるカゼインを同量摂取したコントロール群(図2中では「プラセボ群」)に対し、β‐コングリシニンを摂取した試験群は、臨床試験開始後4週間で、血中の中性脂肪が明らかに減少しました。これについては血中の中性脂肪値がもともと高い人(150mg/dl以上)と適正範囲(150mg/dl未満)の人で比較すると、β‐コングリシニンは中性脂肪値が高い人のみに作用することが確認されています。摂りすぎが問題になる中性脂肪ですが、本来体にとっては欠かせない成分であり、血中の中性脂肪値が適正範囲内の人には特に影響をもたらさないという点は、食品成分としての重要な要件です。

 次に内臓脂肪に対する効果を見たところ、図3のように臨床試験開始20週以降でβ‐コングリシニン摂取群に明らかな減少が確認できました。この場合も内臓脂肪が多い人ほど減少率が高いことがわかっています。

図2 血中中性脂肪の推移

■デザイン:プラセボ群との二重盲検
■対象:高脂血症気味の健常男女140名
■摂取期間:12週間(3ヶ月)+後観察4週間
■摂取量:錠菓8粒(β‐コングリシニン5g)/日(朝夕食前)
※注5の著者らが元データを用いて作図

図3 大豆β‐コングリシニン5g投与前後における内蔵脂肪面積の変化

■デザイン:プラセボ群との二重盲検法
■対象:肥満症気味の健常男女100名
■摂取期間:20週間(5ヶ月)+後観察4週間
■摂取量:錠菓8粒(β‐コングリシニン5g)/日(朝夕食前)
※注5の著者らが元データを用いて作図

β‐コングリシニンは別の臨床試験で1日当たり2.5g摂取すると、図4の通り、プラセボ群(図4中では「コントロール群」)に比べ、内臓脂肪面積を大きくに減らしました。(注6)

図4 大豆β‐コングリシニン2.5g投与前後における内蔵脂肪面積の変化

■デザイン:コントロール群との二重盲検法
■対象:BMIが25以上の30~60歳の男性、ウエスト径が90センチ以上の者 25名
■摂取期間:12週間(3ヶ月)
■摂取量:β‐コングリシニン2.5g/日(朝夕食前)
※注6の著者らが元データを用いて作図

β‐コングリシニンは、そのメカニズムとして、脂質のβ酸化(分解)を上げ、脂肪酸合成を抑えるとともに、食事中の油脂を直接排泄する作用があることで、中性脂肪と内臓脂肪を減らすと考えられます。(注7)

【5】β‐コングリシニンと血糖調節

 インスリン抵抗性とは、体内で十分なインスリンが作られているにもかかわらず、インスリンを受ける臓器に対し感受性が低下し、インスリンの作用が十分に発揮できない状態を言います。内臓脂肪が蓄積するとインスリンが働きにくくなります。

 血糖高値な健常者に対してβ‐コングリシニンを一日2.5g継続摂取させ、血糖値の低下について検討しました。(注6)

 今回の試験では血糖値の低下はほとんど認められませんでしたが、インスリン値は15%以上も低下し、少量のインスリンで効率よく血糖をコントロールできることがわかりました。血糖値そのものに結果が反映しなかった理由は、被験者の初期値にあるものと推察されました。今回の被験者の試験前の空腹時血糖値は120㎎を若干上回る程度で、それほど高値とは言えません。この場合、効率の強まったインスリンの分泌を節約する方向に働いたものと考えられます。

 一方、糖負荷試験の結果(図5)を見ますと、糖が負荷されたので血糖値は急激に上昇しましたが(今回の試験では200㎎/dlを上回るまで上昇)、インスリンがプラセボ同様に分泌され、血糖値は負荷前の状態にすばやく戻りました。このようにβ‐コングリシニンの摂取は、インスリン感受性をあげる(抵抗性を改善する)ことで、血糖値が高い場合にはそれを適正化させる十分な量を分泌させ、血糖値が正常な場合はインスリンの分泌を節約する働きがあるものと考えられます。

図5 血糖値とインスリンの経時変化

■デザイン:プラセボ群との二重盲検法(クロスオーバー)
■対象:血糖高値(100-135mg/dl) の健常男女28名
■摂取期間:4週間(1ヶ月)+試験前後に糖負荷試験
■摂取量:茶系飲料(β‐コングリシニン2.5g)/日
※注6の著者らが元データを用いて作図

【6】まとめ
 大豆タンパク質の主要成分の一つであるβ‐コングリシニンの摂取は、中性脂肪、内臓脂肪の低減効果があり、インスリン感受性をあげる(抵抗性を改善する)ことで、血糖値を適正化させる働きがあるため、メタボリックシンドローム(メタボ)の予防に期待できると考えられています。

(注)

  • e-ヘルスネット(厚生労働省)。メタボリックシンドローム(メタボ)とは?URL: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-01-001.html (Accessed: Nov. 25, 2024)。
  • 厚生労働省。人口動態調査 結果の概要。URL: https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html (Accessed: Nov. 25, 2024)。
  • メタボリックシンドローム診断基準検討委員会。メタボリックシンドロームの定義と診断基準。日本内科学会雑誌。2005;94:188-203.
  • 厚生労働省。令和4年「国民健康・栄養調査」の結果。URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42694.html (Accessed: Nov. 25, 2024)。
  • Kohno et al. Decreases in serum triacylglycerol and visceral fat mediated by dietary soybean beta-conglycinin. J Atheroscler Thromb. 2006;13(5):247-55.
  • 河野ら。大豆β-コングリシニン含有食品による糖および脂質代謝異常改善効果: ヒト試験による検証。応用薬理 82 (5/6) 59-65, 2012.
  • Fukui et al, Effects of soybean beta-conglycinin on hepatic lipid metabolism and fecal lipid excretion in normal adult rats. 2004;68(5):1153-5.