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7. 大豆たん白の健康知識 心臓病予防編

大豆たん白と血中コレステロール

 ヒトを含む動物では、コレステロールは食事として外部から摂取するほかに、体内臓器(肝臓)で生合成をしてまで必要とする成分です。それでは、食事からコレステロールを摂取する場合をみてみましょう。食事にはたん白質や糖質のほかにビタミンなど様々な成分が含まれますが、コレステロールは中性脂肪やリン脂質とともに総じて“脂質”に含まれています。

 口から摂取された脂質は胃内を通過して、十二指腸にて肝臓で作られた胆汁(主に胆汁酸を含む)と出会い、小腸に向かう過程で乳化(ミセル化)されます。コレステロールは、微細に乳化されたエマルションから、小腸の吸収側上皮にあるトランスポーター(NPC1L1)を介して細胞内に入ることが明らかにされました(4, 5注1,2)。小腸より吸収されたコレステロールはエステル化されたのち、他の脂質と共にアポタンパク質B-48を中心としたカイロミクロンと呼ばれるリポタンパク質に取りこまれ、リンパ液に放出され、腸管リンパ管を通って静脈血流に流れ込みます。血流に乗ったカイロミクロンは、一部は各組織で脂質が抜き取られながら、カイロミクロンレムナントとなって肝臓に取り込まれます。一方、脂質の吸収に関わった胆汁酸も約90%以上が小腸下部より吸収を受け、門脈血から肝臓に運ばれたのち再び胆汁として脂質の吸収に使われます(腸管循環と言われています)。

図. コレステロールの吸収と代謝

 各組織に取り込まれたコレステロールは、肝臓とそれ以外で輸送が異なります(図)。末端組織に取り込まれたコレステロールなどは、HDLと呼ばれる高密度リポタンパク質に引き抜かれ、肝臓に向かいます(血中からコレステロールエステルを肝臓に取り込む受容体はScrb1と呼ばれています)。肝臓にあるコレステロールは中性脂肪とともに、アポタンパク質B-100(Apo B)を中心としたVLDLと呼ばれる超低密度リポタンパク質に包含された形で血中に放出され、末端組織に脂質を運搬していきます。運搬される過程で密度が上がり、VLDL→LDL(低密度リポタンパク質)に変化したのち、受容体によって肝臓に回収されます。このように、肝臓は外部(食品)からのコレステロール吸収に必要な胆汁酸の製造と、体内のコレステロール循環に大きく関わる臓器なのです。

 肝臓のもう一つの役割は、コレステロールを生合成(de novo合成ともいいます)できる点にあります。糖や脂肪酸を分解した際に生じるアセチル-CoAを基質として、酵素HMG-CoArによってコレステロールは合成されます。脂質吸収に必要な胆汁酸は、肝臓でコレステロールを異化することによって作られており(酵素はCYP7a1)、腸管循環によって回収された胆汁酸とともに再び、脂質吸収のために胆汁として十二指腸に分泌されます。

 以上のように、吸収・合成・異化という厳密な調節システムによって脂質吸収は制御されているのですが、これらが破綻(加齢や過食などによる食習慣の乱れなど)することによって、生体の恒常性(ホメオスタシス)が悪影響を受けてしまいます。その一つが血中コレステロールの上昇になります。

 なぜ、大豆たん白質を食べることによってコレステロールが低下させることができるのでしょうか。その作用メカニズムとしては大きく2つが提唱されています。一つは、コレステロールの吸収を抑えること、そしてもう一つはコレステロールの代謝を変動させること、です。

 大豆たん白質と脂質を摂取すると、脂質は胆汁酸によってミセル化されますが、大豆たん白質はコレステロールや胆汁酸とくっつきやすい性質を持っているために、脂質のミセル化を邪魔することでミセル化されにくくなり、そのためにコレステロールの小腸からの吸収が阻害されることが明らかになっています。一方で、大豆たん白質は腸内でいくつかのタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)によって大部分が分解され吸収されます。興味深いことに、Nagataらは、大豆たん白質の降コレステロール作用は大豆たん白質のアミノ酸混合物では得られなかったことから、大豆たん白質であること自体が有益であることを示しています(注3)。

 Suganoらは次のような報告をおこなっています。大豆たん白質を酵素分解によって、低分子画分と高分子画分に分け、コレステロールに及ぼす影響をみてみると、高分子画分が多い程、血中コレステロールが低く、また糞中への中性ならびに酸性ステロイド排泄が高いことが判りました(注4)。つまり、腸肝循環に関連したコレステロール代謝の変動によって血中コレステロールを低下させることが示されました。

 不二製油では、大豆たん白質を摂取したときに肝臓で何が起こっているか、網羅的遺伝子発現から解析した報告があります(注5)。Suganoらの報告と同様に糞中への酸性および中性ステロイド排泄が亢進していることを確認しました。くわえて、肝臓でのコレステロールプールと血中のコレステロールはコントロール(乳タンパク質)に比べて低かったことも確認しています。その時、肝臓では、①コレステロール異化系の律速酵素であるCYP7a1の発現増加、②コレステロール合成系の酵素であるHMG-CoArの発現増加、③肝臓からコレステロールを運び出すアポタンパク質B(Apo B)の発現低下、④血中から肝臓にコレステロールエステルを取り込む受容体(Scrb1)の発現上昇、⑤脂肪合成の酵素である脂肪酸合成酵素(Fasn)の発現低下、が起きていました(図)。これらを俯瞰すると、大豆たん白質は胆汁酸の腸管循環をやや破綻させることで、肝臓において胆汁酸を新たにコレステロールから作り出す必要が生じます。使われた肝臓のコレステロールプールの減少を補うために、身体はコレステロールの新規な生合成や血中から肝臓にコレステロールを取り込もうとします。その結果、血中のコレステロールは低下するのだろう、と考えられています。

(注)

  • 1. Altmann, et al. Niemann-Pick C1 Like 1 protein is critical for intestinal cholesterol absorption. Science. 2004; 303(5661): 1201-4.

  • 2. 池田&加藤.コレステロールの腸管吸収機構.オレオサイエンス.2012; 12(3): 107-14.

  • 3. Nagata et al. Studies on the mechanism of antihypercholesterolemic action of soy protein and soy protein-type amino acid mixtures in relation to the casein counterparts in rats. J Nutr. 1982; 112(8): 1614-25.

  • 4. Sugano et al. The hypocholesterolemic action of the undigested fraction of soybean protein in rats. Atherosclerosis. 1988; 72(2-3): 115-22.

  • 5. Tachibana et al. Intake of soy protein isolate alters hepatic gene expression in rats. J Agric Food Chem. 2005; 53(10): 4253-7.