5. 大豆たん白の健康知識 心臓病予防編
米国FDAが大豆たん白の心臓病リスク低減健康表示を承認
1日25gの大豆たん白が心臓病のリスクを下げる
米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration, FDA)は、1990年成立の栄養表示教育法(Nutrition Labeling and Education Act: NLEA)により、1993年に「ヘルスクレーム(健康表示)制度」を発足させました。健康表示というのは「★★★の食品、あるいは栄養素を◆◆◆(量)摂ると、●●●という病気になるリスクを低減できる」などと表示することです。米国FDAは、1999年10月に「大豆たん白と冠動脈心疾患リスクに関する健康表示(Health claims: Soy protein and risk of coronary heart disease(CHD))」を承認しました。(注1)
CHDは最も一般的且つ重篤な心血管疾患の1 つで、心筋とそれをサポートする血管の疾病を指します。高血中総コレステロールとLDLコレステロール濃度はCHDに発展するリスクの上昇に関連しています。高飽和脂肪と高コレステロールの食事は血中総コレステロールとLDLコレステロール濃度の上昇、従って、CHDリスクの上昇に関連している科学的根拠(scientific evidence)が確立されています。科学的根拠は、低飽和脂肪と低コレステロールの食事がCHDリスクを低減することを証明しています。低飽和脂肪と低コレステロールの食事へ大豆たん白の追加がCHDリスクの低減に役立つことが証明されています。
FDAの健康表示では、申請された食品について個々に審査して承認を与えるのではなく、「大豆たん白」のようなカテゴリーそのものに承認を与えるという方式を採用しているので、とても厳しい審査が行われます。現在、米国FDAが承認している健康表示は12件です(2024年5月現在)。
具体的には、1食分に6.25g以上の大豆たん白を含む食品は、次のいずれかの表示ができることになりました。
① 「1日あたり25gの大豆たん白を、低飽和脂肪酸と低コレステロール食の一環として摂取することは、心臓病のリスクを低減させることができます。この★★★(製品名)1食分には○○gの大豆たん白が含まれています」
② 「1日あたり25gの大豆たん白を含む低飽和脂肪酸と低コレステロールな食事は、心臓病のリスクを低減させることができます。★★★(製品名)1食分には○○gの大豆たん白が含まれています」
このFDAの健康表示の承認につづいて、米国心臓協会(AHA)栄養委員会は2000年11月、血中コレステロール値を低下させる有効な方法の第一歩は日常の食事だという声明を発表しました。これによると、動物性たん白質の代わりに大豆たん白質を摂取すると、血中コレステロール値が低下し、心臓病の予防・改善に効果的という証拠が増えている、ということです。特にAHAが注目しているのは、大豆食品を常食しているアジアの国民と、動物性たん白食品中心の、いわゆる西欧型食生活を取り入れている国民との、心臓病発病率の相違です。実際、日米の35~74歳の心臓病による死亡者(人口10万人あたり)は、日本男性が201人なのに対して米国男性は401人、日本女性が99人で米国女性は197人となっていますから、確かに食事パターンと生活スタイルの違いがこの病気の発症の差となっている、とAHAは推測しています。
米国では過去10年間で、一般の人でも豆腐、豆乳、大豆チーズなどの大豆加工食品が身近に手に入るようになってきています。しかし、日本人を始めとするアジア人と比べれば、まだまだその摂取量は多いとはいえません。ただ、FDAの健康表示承認後、大手食品メーカーが大豆食品メーカーを買収したり、大豆食品メーカーと業務提携するなどの活発な動きが見られ、大豆たん白を利用した食品の開発に本腰を入れ始めました。これまで大豆たん白食品は、主に自然食品店や健康食品店などの専門店で扱われていましたが、現在では大手食品メーカーの参入で、一般のスーパーでも売られるようになってきています。
また米国に続き、2002年9月5日、英国の食品表示評価団体、ジョイントヘルスクレームイニシアティブ(JHCI)が、大豆たん白の心臓病予防効果に関する英国科学者の助言を受け入れ、大豆たん白食品に対して、「コレステロール低下作用を期待できる」というヘルスクレーム(健康表示)を承認しました。英国の冠動脈心疾患による死亡率はゆるやかに減少しつつあるものの、世界最大といわれており、男性においては死亡原因の24%を占めて第1位で、女性は呼吸器系疾患に次ぐ第2位となっています。今後米国同様、大豆加工食品に対する需要が増えていくと考えられます。
2017年10月31日、米国FDA は、エビデンスの再評価による研究結果の不一致と明確な科学的同意が不足しているという暫定的な結論に基づき、1999年に承認した「大豆たん白と冠動脈心疾患リスクに関する健康表示」の取消を提案しました。(注2) 但し、FDAが最終的な決定をするまでの間、事業者は現在許可されている健康表示を使用することができます。(注3,4) 2018年1月17日に、FDAは取消提案に対するパブリックコメントの期間を2018年1月16日から2018年3月19日に延長しました。(注5)2024年5月13日現在、FDAは2017 年10 月の取消提案について、数多くのパブリックコメントを受けましたが、未だに最終的決定を公表していないようです。
2019年に発表された、レベルの高いメタ分析(注6)と累積メタ分析(注7)による新しい科学的根拠(エビデンス)は、FDA が1999年に承認した「大豆たん白と冠動脈心疾患リスクに関する健康表示」を支持しています。 2024年5月13日現在、FDAは1999年に承認した「大豆たん白と冠動脈心疾患リスクに関する健康表示」について、2024 年5月9日で最終更新され、引き続き有効になっています。(注8,9)
(注)
1. Food labeling: health claims; soy protein and coronary heart disease.
Food and Drug Administration, HHS. Final rule. Fed Regist. 1999 Oct 26;64(206):57700-33. [PMID: 11010706]2. Federal Register. Food Labeling: Health Claims; Soy Protein and Coronary Heart Disease.
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7. Jenkins et al. Cumulative Meta-Analysis of the Soy Effect Over Time. J Am Heart Assoc. 2019 Jul 2;8(13):e012458. [PMID: 31242779]
8. eCFR :: 21 CFR 101.82 -- Health claims: Soy protein and risk of coronary heart disease (CHD).
URL: https://www.ecfr.gov/current/title-21/chapter-I/subchapter-B/part-101/subpart-E/section-101.82. [Accessed: May 13, 2024]9. CFR - Code of Federal Regulations Title 21 (fda.gov).
URL:https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfcfr/CFRSearch.cfm?fr=101.82. [Accessed: May 13, 2024]